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数多くの出店経験を持つブルワリーをご紹介! ─ 松江ビアへるん ─

2024.05.14

「けやきひろば春のビール祭り」出店者の中から、長きにわたり出店しているブルワリーを2つご紹介します。2つめは「松江ビアへるん」。島根・松江市で「島根の食に合わせたビール」をつくり続けるブルワリーです。


島根の食文化が“濃ゆい”ビールを生み出した

「松江ビアへるん」は、島根ビール株式会社が島根・松江市に設立したブルワリーです。松江城から徒歩10分ほどの場所にある「松江堀川地ビール館」内の一角で、1999年に醸造を開始しました。

松江ビアへるんのある「松江堀川地ビール館」。松江城の堀や市内の水路を巡れる「堀川遊覧船」のりばのすぐ隣にある


松江市は、宍道湖畔と斐伊川本流(大橋川)沿いに発展し、市街地の中のいたるところに水路のある「水の都」。京都、金沢と並ぶ日本三大お茶どころ・和菓子どころで、茶の湯文化が盛んな町としても知られています。そして、「耳なし芳一」などの怪談で知られる文豪、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)ゆかりの地でもあり、地元松江では「へるん先生」と呼ばれて親しまれていたことが、ブルワリー名の由来にもなりました。

堀川遊覧船で松江の城下町にある堀を巡れる

松江ビアへるんから徒歩5分ほどのところに「小泉八雲記念館」がある

宍道湖(しんじこ)では古くからシジミ漁が盛んに行われてきた


同社の定番ビールは、「縁結麦酒(えんむすびーる)スタウト」、「ヴァイツェン」、「ペールエール」、「ピルスナー」の4種類。他のブルワリーがつくる同じスタイルのビールに比べ、リッチで飲みごたえのある、いわゆる“濃ゆい”味わいが印象に残ります。

左から、「縁結麦酒スタウト」、「ヴァイツェン」、「ペールエール」、「ピルスナー」


そこには、ブルワリーの初代醸造長であり、現在は同社社長を務める矢野 学さんの「嫌いなものはつくらない。自分たちが好きなビールをつくる、そこに専念することが弊社のポリシーです」という言葉にヒントがありました。

島根ビール株式会社の代表取締役であり、松江ビアへるんのビアプロデューサーを務める矢野 学さん


「島根の食は、宍道湖で穫れるシジミやあごだしが多用されており、出汁の香りが高く味わい深いものが多い。刺身醤油はとろっとして甘味があり、地元の名物『出雲そば』のそばつゆも濃くて甘めです。

スタッフは皆、島根出身だったり長期間在住している人がほとんどです。島根の食に慣れ親しんだメンバーで好きなビールをつくっていたら、いつの間にか味や香りの濃いビールができていたんですよ(笑)」(矢野さん)

たとえば日本酒がその地域の食文化に沿って発展を遂げてきたように、「地元の人が日々の晩酌として食事に合わせた時に、より美味しく飲めるビールをつくりたい」というのが松江ビアへるんの方針です。ひいては、それが、“ローカルビール”のあるべき姿だと矢野さんは考えています。

松江堀川地ビール館を訪れると、ブルワリーの様子がガラス越しに見られる

松江ビアへるんのビールは国際的なビールコンテストでいくつも賞を受賞してきた


魚介の旨味を加速する「しじみヴァイツェン」

松江ビアへるんは、10年以上の長きにわたり「けやきひろばビール祭り」に出店しています。隠岐の山海の幸を提供する海士物産とタッグを組み、アワビやサザエ、サバなどの魚介を中心に“山陰の味”を提供してきました。

今回提供するビールの中でも特に注目したいのが、宍道湖シジミからとった出汁を使った「しじみヴァイツェン」。まずは組み合わせの斬新さに驚いてしまいますが、液体を口に含むとヴァイツェンの甘味とほのかな酸味の奥に出汁の香りが潜んでおり、決して違和感はありません。

利尻昆布も使われている「しじみヴァイツェン2024」


しかしながらこのビールは、シジミや魚介料理と合わせることでシジミの旨味が色濃く現れ、料理の旨味や塩味のつなぎ役となってくれるのです。料理とともにいただいてこそ大きな喜びが感じられる、まさに食中酒の王道と言えるでしょう。同社Webサイトでは、しじみヴァイツェンとのペアリングレシピも公開されています。

誕生したのは一昨年のこと。宍道湖シジミを使ったビールづくりを模索していたものの、当初は飲んで美味しいと納得できる──味わい深く、コクがあり、旨味を持つ──方向性を探るのに苦心していたと言います。

「そこで地元のシジミをよく知るプロに協力してもらおうと思い、日本料理の料理長、フレンチのシェフ、酒販店の店主などにお願いして『島根まいもんビールプロジェクト』を立ち上げました。『まいもん』とは出雲弁で『美味いもの』の意味。シジミを使った郷土料理や創作料理などを様々なスタイルのビールとともに、総当たりでペアリングテストしていったんです」

テストの総数は、なんと859通りにも及びました。料理とビール、双方の香りと旨味が深まった一番の組み合わせを見つけ、シジミの正式な出汁の取り方を学んだ上で醸造にのぞんでいます。煮沸釜に80kgの殻付きシジミを入れて煮出し、麦汁を絞っているところにシジミの出し汁を入れることで風味を抽出しました。

3度目の醸造となる今回は、シジミの旨味であるコハク酸に、利尻昆布の出汁をとってグルタミン酸も加えたバージョンアップ版。これまでのしじみヴァイツェンを味わった人にとっても、ひと味違う新鮮さを伴っての登場です。


「抹茶ラテ」のように味わえるビール

しじみヴァイツェンと同じく、プロに根本から学び知見を得てつくられたビールがもうひとつ、ビール祭りで提供されます。松江ビアへるん創業25周年ビールとしてつくり上げた「白緑(びゃくろく) 抹茶ホワイトエール」です。

「白緑(びゃくろく) 抹茶ホワイトエール」


ベースとなるのは、乳糖を使った製法で仕上げたベルジャンスタイルホワイトエール。まろやかな口当たりにお茶の爽やかな香りとほろ苦さが加わり、まるで抹茶ラテのようにも楽しめます。

これは、松江で140年続く老舗「中村茶舗」とのコラボビール。醸造にあたっては「抹茶の美味しさとは何か」という根源的な問いに向き合い、茶葉や製造過程を一から学びつつのぞみました。

「社員全員が中村茶舗で講義を受け、工場を見学し、抹茶を使うカクテルをつくるバーを訪れてアルコールと合わせた味わいの変化を体感し……。

最終的には抹茶の前段階である碾茶(てんちゃ:碾茶を臼でひいたものが抹茶となる)を低温で淹れ、テアニンという旨味・甘味成分を活かしました。ビールの中に、お茶の旨味と風味をしっかり感じてもらえると思います」


美味しいビールづくりの原動力、それは“愛”

自分たちが納得のいく味わい」に正面から向き合い、足りない技術は一からプロに学ぶ。松江ビアへるんの真摯なビールづくりの姿勢は、どこから生まれているのでしょうか。

松江ビアへるんのスタッフ


「私がビールづくりの師と仰ぐ方々の一人が、『ビールづくりは愛だよ』と、ことあるごとにおっしゃいます。最初は冗談かなと思ったんですが、自分の身に置き換えてみると合点がいきました。愛がある……つまり好きなビールに対しては、ついついいらない手間までかけてしまっているんですよね。

たとえば、基本的には1回やるだけで十分な液体の数値分析を朝夕2回やってしまう。発酵の勢いがどうなっているか気になって、何度も発酵タンクへ足を運んでしまう。

自分が好きで気合を入れてつくっているビールだからこそ、細かいところまで気を配りたくなります。そうした積み重ねが、実はビールの最終的な仕上がりに現れるのではないかと思うのです。

『好きなものをつくることが、美味しいものをつくる原動力になる』──そう信じてビールづくりを続けています」


発酵・熟成タンクや樽、缶充填機などが並ぶブルワリー内。数値を基にした細やかな品質チェックを怠らない


実直に、誠実に「好き」に向き合い生まれてきた松江ビアへるんのビールたち。その味わいから感じ取れる地域の食文化への愛、ビールへの愛を、ぜひビール祭りで体験してみてください。

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