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数多くの出店経験を持つブルワリーをご紹介! ─ 大山Gビール ─

2024.05.02

「けやきひろばビール祭り」に、長きにわたり出店しているブルワリーを2つご紹介します。1つめは「大山Gビール」。中国地方最高峰にして“伯耆富士”(ほうきふじ)の異名を持つ「大山(だいせん)」のふもと、標高300mの土地に醸造所を構えるブルワリーです。


大山Gビールの半分は“優しさ”でできている

鳥取・伯耆町にある「大山Gビール」は、創業160年以上の歴史を持つ地酒メーカー「久米桜酒造」が、1997年に立ち上げた「くめざくら大山ブルワリー」のビールブランド。今年で28年目を数えます。

大山をのぞむところに同社が管理する田んぼや畑がある


「大山Gビールの半分は優しさでできています」と、同ブルワリーの醸造責任者を務める岩田秀樹さん。“優しさ”の源は、大山の水や地を覆う緑にあるといいます。

特に印象深いのは、ビールづくりに使用している水。ブルワリー地下150mから汲み上げた、大山の極めて良質な伏流水で、その口当たりは驚くほど柔らかです。


ブルワリーの近くにある「地蔵滝の泉」。「平成の名水百選」にも認定されている超軟水だ


定番は、「ピルスナー」、「ペールエール」、「ヴァイツェン」、「スタウト」の4種類。特にヴァイツェンは同ブルワリーを代表する銘柄で、2011年には世界的なビールコンペティション「World Beer Awards」のヴァイツェン部門で世界一に輝きました。

「大山Gビールのヴァイツェンを飲んでクラフトビールが好きになった」という声をよく耳にするほど、このビールのファンが多い


大山Gビールの大きな特徴は、大山の四季や、土地がもたらす恵みを活かしたビールづくりを行っているところです。

たとえば、地元農家とともに育成した県産の大麦を使う「大山ゴールド」、大山Gビールのファンたちとともに栽培・収穫した酒米「山田錦」を麦芽にブレンドした「八郷(やごう)」、ブルワリーの裏手にある畑で自社栽培した、収穫したての生ホップを使う「ヴァイエンホップ」──。これらに代表される各々のビールが、大山で根を張り育った農作物(原材料)を感じさせてくれます。

左から 大山Gビール ペールエール、ヴァイツェン、八郷(やごう)


ビールを“ライブ”で感じてもらいたい

大山Gビールでは予約制のブルワリーツアーを開催していますが、参加した方々からはたいてい驚かれるのだとか。

「醸造所を見学しにきたはずが、まずは車で大山のあちこちを巡り水や畑を見たり、牧場でソフトクリームを食べたりして、醸造所に行き着くのが1、2時間後だったりするので(笑)」(岩田さん)

そこには、「自分たちが育てている、ひいては飲む人が味わうビールの原材料が育つ姿や育まれている環境を見て、触って、知ってほしい」という大きな目的がありました。

国内のクラフトビールブルワリーでは、水以外の原材料をすべて輸入に頼っている、つまり麦芽やホップが加工された状態でしか触れられないケースが多々あります。しかし、ビールのつくり手として原材料のことをきちんと知ろうと考えた岩田さんらは地元の農家に相談し、鳥取県が開発した大麦「ダイセンゴールド」をはじめ、小麦、ホップ、酒米などの栽培を自分たちの手で始めました。


地域の農家さんと一緒にブルワリースタッフが育成している大麦「ダイセンゴールド」と大山小麦


「最初はわからないことだらけ。枯らしてしまったり虫にやられて全滅、という失敗もありました。でも、栽培経験を通して確実に我々の想いを伝えやすくなりましたし、原材料が成長する過程をお客様に見てもらうことで、ビールにより愛着を持ってもらえていると感じています」

大麦は10月終わりに種をまき、6月頃に刈り取られる


なぜ、土地や自分たちの取り組みを見てもらう必要があるのか。岩田さんは自らが幼少期から続けている「音楽」になぞらえて話してくれました。

「音楽は皆の身近にあるけれど、同じ曲でも家で聴くのとライブで体感するものではまったく異なりますよね。ライブでは、同じ空間、時間、プレイヤーのパフォーマンスや表情を通して、想いもガンガンに伝わってくるわけです。

それはビールも同じ。何の情報もなしにビールを飲めば、単に『美味しい、美味しくない』の話に終始してしまいます。ですが、大山の超軟水を飲んだり、青くて幼い麦を見てもらったり、ホップの香りを嗅いだりして共有する時間や交わす言葉が増えることで、私たちのビールから感じとってもらえるものがより多くなると思うんです」

だから、いつもビール祭りでお客様と直接言葉を交わしながらビールを提供できるのが、うれしくて仕方がない──そう、岩田さんは言葉をつなぎました。「ビール祭りに来て、“ライブ感のあるビール”を楽しんでほしい」と。

ステージに立つ岩田さん(左から2番目)


ビール祭りで楽しめる
オール大山の麦を使ったスペシャルビール

大山Gビールの取材に訪れた4月中旬、タンクの中ではビール祭りでの提供を予定している「限定シークレットサワーIPA(仮称)」が静かに熟成されつつありました。

「現時点ですでに美味しくできあがっています」と岩田さん


こちらは、大山Gビール設立27周年を記念したスペシャルビール。岩田さんに詳細を尋ねると……。

「自分たちで育てた、オール大山の大麦・小麦を使っています。大量のホップとともにIPAをつくり、さらにケトルサワリング(煮沸釜で乳酸発酵させ、酸味を付加)した後、タンクでドライホッピングしました。

ケトルサワリングに使う乳酸菌は、弊社「久米桜酒造」の酒蔵で酛すり(もとすり:米や米麹をすり潰して天然の乳酸菌を取り入れ育てる手法)をしてできた天然もの。

ビールはすでに、今の時点で美味しくなっています! さらに成長した状態のものをビール祭りで提供できるのが本当にうれしくてワクワクしています」

ケトルサワリングは、実はブルワリーにとって極めてリスクの高い製法です。万が一、煮沸釜に投入する(乳酸)菌を管理しきれずブルワリー内に蔓延してしまった場合、他のビールにも意図しない酸味が加わってしまいます。


大山Gビールの醸造施設。醸造行程における数値などは細部に至るまで細かくアナログで記録し、微細な違いが生じた際の原因究明や異常発生時などに備える


大山Gビールがケトルサワリングに初めて挑戦したのは、2019年、春のビール祭りのために京都醸造とコラボレーションした「燦々京鳥(さんさんきょうちょう)」。ヴァイツェンをベースとしたケトルサワーでした。

「ケトルサワーづくりは、万全の対策を持ってしても罪悪感と恐怖感が伴います」と岩田さん。しかしながらその挑戦には、新しいスキルを学び、ビールづくりにおいては管理の難しい乳酸菌を完全にハンドリングできるブルワリーだと証明したい、という想いがありました。この挑戦がブルワースタッフ皆にいい緊張感を与え、無事ビールとして完成させられたことが自信につながった、と言います。

2019年からさらなる経験を積み、技術を磨き、工夫が凝らされた「限定シークレットサワーIPA」。ビール祭りの大山Gビールブースで、岩田さんと“セッション”しながらライブ感とともに味わえるのが、今から待ち遠しいですね。

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